「授業だけじゃ、先生は終われない」
黒板の前に立ち、生徒と向き合う時間。
教員として一番大切な時間のはずなのに、
いつの間にか、それが「おまけ」のようになっている。
放課後は会議、プリント作成、保護者対応、生徒指導に加えて
部活動の顧問や地域行事の運営まで。
時計を見れば、もう19時。
自分の机には、今日手をつけられなかった業務の山。
気がつけば、毎日が「業務をこなすために学校へ行く」日々に変わっていた。
業務過多による“静かな燃え尽き”
近年、教員の退職理由として「精神的な疲弊」「業務負担の重さ」が上位に挙がっています。
文部科学省が令和4年度に実施した「教員勤務実態調査(確定値)」によると、
中学校教員の1週間あたりの在校等時間は57時間24分にも上っています。
これは所定の勤務時間(38時間45分)を約18時間半も超過しており、
過労死ライン(月80時間超)にも迫るペースで働いている現実が明らかになりました。
特に20代の若手教員においては、校務分掌や部活動、行事運営などが集中する傾向にあり、
「休む余裕がない状態」が常態化しています。
こうした働き方がもたらす影響は…
- 業務に追われて「達成感」を感じられない
- 本来のやりがい(授業、生徒の変化)に集中できない
- 「やっても評価されない」「頑張っても改善されない」という無力感
こうして、“静かな燃え尽き”が進行します。
燃え尽きるほどの「情熱」はあったのに、
いつしか“何も感じなくなる自分”に気づく。
それが、今、多くの教員が抱えているリアルな問題です。
モチベーション低下の背景にある「構造的な3つの問題」
①「仕事が多すぎる」のに、「減らせない」仕組み
学校には“仕事が属人的に集まりやすい”構造があります。
たとえば…
- 何でも引き受けてしまう先生にばかり、仕事が集中
- 若手や教科によって業務量に偏りがある
- マニュアルがなく、「前任者のやり方」がそのまま継続
結果、効率化が進まず、「減らす」よりも「抱える」仕事が増え続けます。
②「正解がない仕事」が多すぎる
教員の仕事は、「点数化できない業務」が多く存在します。
- 保護者対応に“ゴール”はない
- いじめ防止の「取り組み」が求められるが、評価は不明瞭
- 日常の声かけやトラブル処理は“やって当たり前”
つまり、「成果が見えにくく、報われにくい」仕事が山積みになっているのです。
それがモチベーション低下を招く大きな要因となっています。
③「孤独に戦う」仕組みになっている
若手の先生が「相談しにくい」と感じる背景には、
- 上司が忙しすぎて話しかけづらい
- 本音を言える同僚がいない
- 自分だけが「しんどいのでは」と思い込んでしまう
といった心理的孤立があります。
“声を上げること=弱さ”と捉えられがちな学校文化も、
孤立を加速させる一因です。
「どうせ変わらない」から脱却する3つの処方箋
では、この構造的な問題にどう向き合えばよいのでしょうか?
ここでは、実際に現場で効果を上げた“現実的な処方箋”を3つご紹介します。
処方箋①:「仕事の棚卸し」で、“やらない勇気”を持つ
やるべきことを減らすために、まず「何に時間を使っているか」を洗い出してみましょう。
ノートやアプリに、1週間の仕事をすべて記録するだけでもOKです。
そして、次の3分類をします。
- 【残す仕事】:担任・授業など、自分の役割で絶対必要なこと
- 【手放す仕事】:慣習でやっているだけのこと(例えば、配布資料の印刷→PDF配信に変更)
- 【任せる仕事】:他の人でもできること(名簿作成、集計など)
「減らす」ではなく、「見える化して、選ぶ」ことで、
罪悪感なく“手放す判断”ができるようになります。
処方箋②:「成果の見える仕事」に焦点をあてる
- 生徒の表情が変わった
- 保護者から感謝の言葉をもらえた
- 教室で“安心して笑う”姿を見られた
これらは、数値にはならないけれど、確かに“意味がある”成果です。
「今日、誰かにとってプラスになったことは?」を
毎日1つだけ書き出してみてください。
“意味のない日”なんて、一日たりともありません。
その記録が、あなたの「続ける理由」になります。
処方箋③:「一人じゃない」と感じられる場所を持つ
学校内に安心して本音を話せる人がいないなら、
学校の外でも構いません。
- SNSで同じ悩みを持つ教員とつながる
- 外部の研修やサロンに参加して視野を広げる
- カウンセリングやコーチングを受けてみる
「こんなに頑張ってるのに、しんどいなんて言えない」
そう思ったときこそ、“安心して弱音を吐ける環境”が必要です。
「誰かに話す」ことで、抱えているものが半分になります。
一人で全部背負う必要なんて、どこにもありません。
最後に──燃え尽きる前に「立ち止まる」勇気を
モチベーションが下がるのは、あなたが怠けているからではありません。
むしろ、あなたが真面目で、責任感が強いからこそ、
その重圧をまともに受けてしまっているのです。
でも、教育は「一人で頑張るもの」ではありません。
チームで支え合いながら続けていくものです。
そして、まずはあなた自身の心と身体を守ることが最優先です。
✔この記事のまとめ
- 教員のモチベーション低下は、業務過多・成果の見えづらさ・孤立から起こる
- まずは業務を“見える化”し、手放す・任せる判断を
- 日々の小さな成果を記録し、「意味ある仕事」として可視化する
- 学校の外にも「安心して話せる人」を持つことで心の余白が生まれる

疲れた時は立ち止まっていい。
そしてまた、笑って教室に戻れたら、それが一番の教育です。
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